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「なにをぼ~っとしてやがる…あん?仕事しろよ、もう!」



積み上げられた書類の山。
どれも目を通してサインが必要なものばかり。
その机に座っている男には、その書類の山が目に入らない。
見ているのは窓の外。
数多の星。
春雨要塞星の一室で、ここは第七師団長神威の部屋。
側にはいつもの副団長、阿伏兎。
その阿伏兎が面倒臭そうに書類の一枚一枚に唸っていた。

傘を持って暴れまわること以外に興味の無い神威に
事務仕事は酷と言えよう。
だからといって同じ夜兎族である阿伏兎にも
この手の仕事は不得意である。
なのにほおっておくとその書類の山はどんどんと高くなる一方なので
仕方無く片付けている…そんな状況。
だが神威は窓の外を見ているだけで、黙っている。

「…具合でも悪いか?さっきの食事もおかわりナシだったじゃねえか…」
「別に…美味く無かっただけだ」
「…ふううん…」




「小さいけどケーキよ、神威。お誕生日おめでとう!」
「うわあ…!」
「いいな、兄ちゃま!ケーキ、ケーキ♪」
「……卵…買って来たの?お母さん…」
「そうよ。だって神威の8歳のお誕生日ですものね」
「……う、うん…」
「いいな、兄ちゃま。神楽もケーキ好き~」
「さあ、ろーそくもあるの。3本しかないけど…8本なくてごめんね、神威」
「ううん、いい…」
「神楽3さい~~!神楽のたんじょうびケーキ~~」
「神楽の誕生日は11月3日。その時にはまたケーキを作ってあげるわね。
だから今日はお兄ちゃんが主役なの」
「わああい♪」
神威は神楽の頭を撫でた。

可愛い妹の神楽、優しいお母さん…
うちにはお金が無いのに、卵を買って来てくれたんだ…
神威は嬉しかった。
ここにお父さんが居たら、もっと嬉しいのに…

父親である星海坊主はえいりあんばすたーとして
遠くの星に出稼ぎに行っていた。
いつも一緒に居られない寂しさには慣れっこなはずなのに…
今日の誕生日には側に居て欲しかったなあ…と
神威は小さなため息をもらした。

「神威?さあ…」
「は、はい、お母さん」
いけないいけない、お母さんに心配かけちゃ…
身体の具合が悪いのに、わざわざ起きてケーキを作ってくれたんだもの…

ふうっと勢い良く3本のろーそくの火を吹き消した。
「お誕生日おめでとう、神威!」
「おめでとう、兄ちゃま!」
「うん、ありがとう…」

母は満面の笑顔だった。
妹、神楽もだ。
神威も負けずに笑顔を作った。
寂しさはぐっと心の奥に閉まった。



夏が来たら、この星を出ることになっていた。
父親の昔の友人である春雨の鳳仙の元へ、
戦士になるべく修行に出掛けるのだ。
少なくとも3年間ほどは家に帰らずに修行に専念しろと言われている。
だから11月の神楽の誕生日にはここにはいられないのだ。
神楽の誕生日には、お父さんは帰って来てくれるだろうか。
お母さんの具合が悪くなっていないといいのだけれど…


これが母が居た最後の神威の誕生日となった。



「ほれ…あのなあ、この書類に全部サインをしたら、褒美が出るんだぞ、
今日は」
「え?褒美?何それ?!」

阿伏兎は黙って書類を差し出す。
神威は阿伏兎の指さす書類に書かれている日付を見て…
「な~んだ。そんなの俺、知ってるもの」
「ふううん、そりゃ残念だな。サプライズを用意してるんだがね」
阿伏兎はにやりと笑った。

「へ~んだ…ふふ、阿伏兎。ケーキでもあるの?」
「そうですとも団長。特注のでっかいヤツでございますれば」
「…ふふふ…じゃあサインするかな~」
神威は上から2~3枚の書類を取ると…
「じゃ、後のはお願いね。
俺、ケーキ食べるから全部にサインは出来ないや」
にこっと神威の目が細められた。
「~~~~!!!けっ!そんなこったろうと思ってたさ!」
だが阿伏兎は、神威の笑顔に満足してしまう。
それは自分にだけ向けられた真の笑顔だからだ。

何も聞かされていないにも関わらず
どこか遠い日を思い出している様子が見て取れていた阿伏兎も
それ以上は何も言わずに、下を向いて微笑む。
今のお前にも、誕生日を祝うヤツがここに居るんだぞ、とばかりに。




「ねえ銀さん、今夜の神楽ちゃん、どうかしたんですかね?…」
「あ?なんでだ?」
「いつも何杯もおかわりするじゃないですか。
なのに今夜はちょっとしかおかわりしなかったですよ」
「ああ?インディペンデンスディだからじゃねえか?」
「…何か…考えているように見えるんですけどね…」
「………そだな…」


神楽は万事屋の窓から外を見ていた。
雨が降っていて、星などは見えない。
だけれど神楽の目には見えていたものが有る。
神威が思い出していたあの、母と兄との最後の誕生日の食卓。

それは
神楽にとっても忘れられない大切な思い出の日だった。
神楽はふっと口元を緩ませたのだった…









15分で書いたのでこんなですみませんです。
ミクシのつぶやきのほうに
コメントやイイネ!を下さいました皆さんにお礼として書いたものです。

かつて神威の幼少時代を書いた拙著「螺鈿」にも
似たような幸福の日々を書きました。
ひとつの卵がどんなに大事だったか、という貧しい環境の中でも
神威の母はおそらくせいいっぱいのことを子どもたちにしてあげていたのではないでしょうか。

神威、神楽の容貌、中身もな~んかみんなお母さん譲りだと思いますね。
でも母親は
「子どもたちを授けてくれてありがとう」と
星海坊主に深い愛情を持っていたでしょうね★
星海坊主の居ない間は、子どもたちを護る戦士として
その傘を振り続けて生涯を終えたのだと思います。

誕生日はその子だけのものではなく
両親の喜びの日でもあります事を、
皆さんにも感じて頂けたら、と思います。








おそまつ様でございました。







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