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いつもご閲覧&拍手等ありがとうございます!
前回に申し上げましたが
このお話は 08.12.29の冬コミにて本の形で発行されます。

冬コミスペース番号 東4ホール リ-17a 緋桜流


「目覚めなければいい」


A5/182P/1000円/送料300円





09フルカラー白夜叉カレンダー付き
前後編に漫画がプラス。
最終話は漫画で描いています。
その他、登場人物の解説を絵付きでご紹介。
冬コミでご購入の方には上記の白夜叉カレンダーと
「アンコール4.0」という無料本が付きます。
数に限りがありますので、無くなり次第配布終了となります。


吉原炎上編子攘夷パロ
土銀、神威銀、沖神、万高風味でオールキャラ18禁


松陽先生、銀時、桂、高杉、
坂本、陸奥、
お登勢、京次郎、長谷川、たま、新八、神楽、さっちゃん、服部
土方、沖田、近藤、山崎
神威、阿伏兎、鳳仙、日輪、月詠、晴太
万斉

松陽先生に連れられて子攘夷メンバーは吉原桃源郷に来た
彼らの仕事は遊郭で働く色子…


土銀、神威銀、阿伏兎神威、沖神、万高 
完全成人指定

少数発行になります。
冬コミ以降は在庫?な可能性があります。
ご注文は
http://www.mizukijoe.sfcgi.com

メールフォームより件名:「目覚め」






目覚めなければいい その10 08.12.24



「ふう…さてどうしたもんだろうね?手掛かりも何も無いんだったなあ…」
土方はひとり、コンクリートで出来た空を見上げた。
今日の土方は非番だ。
黒い絹羽二重の着流しに刀を差し、この吉原桃源郷に下り立った。


あれから沖田と土方は、裏の経路を使ってこの吉原桃源郷への通行手形を買った。
職業欄の記入は「ボディガード」などと書き、自分たちの大嘘に腹がねじれた。

「…これで土方さんも俺も、もう引き返せませんね」
「…ああ、…確かにな…」

もう俺たちはその一歩を踏み出してしまった。
松平に知れた時には何と答えたらいいのか、今は見当もつかない。
『自らおとり捜査に入りました』とでも言えば、納得してもらえるだろうか?
「腹斬れぇ!」(cv/若本規夫)とも言われかねない松平片栗虎なのであるが…
だが不思議と後悔はない。俺たちは目的の為に動く。
自分の、その目的を果たすために。

だが土方は、その足を進める方向と目のやり場に困る。
どちらを向いても風俗関係の店ばかり…
はて、どうしたものか…こういうのはどうも苦手だよ…

困った土方の目に、大きく「おもちゃ屋」という文字が飛び込んできた。
足早に店に入る。
何かおもちゃとか、そういうものが欲しい年頃だろうしなあ…と思ったのだ。
だが土方は「おもちゃ屋」の前に書いてある「大人の」という文字を見逃した…!

「へい、いらっしゃいませ~。旦那ああ!何が欲しいっすか?バイブとか?
ムチとか?縄とかどうでっか?」
「はああ?何だと?あああ~?え?何?はあ?」
土方は大急ぎで店の前に飛び出し看板を見やる。
『大人のおもちゃ屋』
し、しまったああ~~!
だがはたと気が付く。
この少年は見たことがある!
あの時、そう、土方の横を走り去った少年たちの中に、この子は居たのではあるまいか?
年頃もちょうど同じくらいではないか?

「ああ、ああ…ちょっと聞くけどもお…(cv/中井和哉)あの、
君はあ、あ、ええと、ど、どんなものが欲しい?」
「ええ?おいらですかあ?おいらは…はあ~、ええと縄かも」
「縄!何でだ?縄飛び用か?」
「はあ?………旦那あ…大丈夫?布団の上でオンナと縄飛びするのが趣味なの?」
「え?はあ?あ、あ、あ、しまった、違う違う違う~ええっと!
君らの年代だったらどんなおもちゃが欲しいかな?と思ったもんでえ~(滝汗)」
「えええ?バイブもムチもいらないなあ…」
「ああ、それ忘れてくれ!大人のおもちゃじゃない、ほんとのおもちゃだ」
「ほんとのおもちゃ?何だよそれ?」
「だからあ、君たちぐらいの子っていうのはどんなおもちゃで遊ぶのかな?ってね、
ああ、そうそう、そういうことを言いたかったんだよ~~」
「はあ……??ええっとお…欲しいのは、お菓子かも…あと電車かな?
おいら電車って乗ったこと無いから…電車のおもちゃだったら、レールとかいっぱい繋いでさ、
銀時たちと遊べるからな~」
「銀時!ぎ、銀時って君の友だち?」
「うん、そう。よく一緒に遊ぶんだ」
「ということは同じぐらいの年なのかな?」
「うん、そうだろうけどたぶんあっちの方がちょっと上かな?
銀時と小太郎と晋助。仲良しなんだ!」

やった!そいつらだ!
きっとその中にあの少年が居るはずだ!
土方は心の中で手を打った。

「で、君の名前は?」
「晴太。晴太ってね、晴れるっていう字なんだよ」

日の差さない地下遊郭で働く子どもの名前が「晴太」…
土方は切なくなる。
きっとこの少年にもいろいろな事情が有って、
親に願いを込められて付けられた名前なのではあるまいか…
いつか晴れた空のもとで幸せに暮らせるように…と。

「あ、じゃあ…その銀時くんたちに、どこに行けば会えるか教えてくれないか?」
「なに…旦那、陰間が趣味なの?」
「え?(やっぱりか!)そ、そ、そう…ゴホンゴホン」
「ええとお…あんまり大きな声で言えないんだけど…」
「え?何でなんだ?」
「銀時たちって…陰の陰間。ああ、ダジャレじゃないんだけどお、
こっそり商売してるんだって聞いたことがあるんだ…」
「うまいね、ダジャレ…じゃない、そうなんだ…それはどうしてだい?」
「なんか事情があるみたい…ヤツら、自分たちじゃ何も言わないけれど、
なんだか悲しい事情が絡んでる様子みたいだ…月詠姐がそれとなく言ってるの、聞いたんだ」
「月詠姐って?」
「わっちでありいす」
「うわああああ~~~!」

土方は飛び上るほど驚いた。
真横に女性が立っている。
近付いてくるのにまったく気配というものが感じられなかった。
恐ろしい女だ。
というか、俺、それほどまでに夢中になって話していたのか?
警察失格だ…というか、これが間者だったらとっくに殺られている…!

「旦那、何者?」
鋭い目付き。だが大変な美女だ。
「ああ、そのですね、ええと…」
「銀時たちの所に行きたいんだってさ。この旦那、陰間が趣味だって。縄が欲しいんだって」
「え?そりゃ、ち、違うんだ~!」
ギロリと月詠が睨んだ。

良く見ると、頬や額に大きな傷がある。
だが白い肌、大きな瞳。カフェオレ色の髪を後ろで結い上げ、かんざしを挿している。
が、そのかんざしは「クナイ」だった!
黒い着物は片方にしか袖のないお洒落なもので、帯をきりりとタイトに締め上げ、
着物から覗く綺麗な足は黒い網タイツにヒールの高いブーツ…
それに襟元から溢れんばかりの巨乳……
(以上、土方十四郎目線ナリ。観察力はさすが(笑)である)

こうなったら仕方がない。土方はまくしたてる。
「あの……ま、まあ、そういうことだ。陰間が欲しい。
この晴太くんに聞いたら、『そういう子』が居るって言うんでね。その妓楼を教えてもらいたい」
「ふん…旦那、お武家さんでありいすか?」
土方の腰の刀に目をやり、ますます胡散臭い表情で土方の顔を見る月詠。
「そ、そうだ」
「そうか……あの世界は衆道が多いって本当だね…」
「え?いや、いや…あ、あはは~」
(そういうことにしてもらっておこうかね?そうしておいた方がどうも都合良く話が進みそうだし)

「陰間のこと、誰に聞いた?」
「だ、誰にも聞いていない。ただせっかく吉原桃源郷への通行手形を買ったのだ。
だったら興の乗るものを買いたいのでね。
まずはおもちゃ…ゴホンゴホン、と思ってここへ入った。そして晴太くんに聞いた」
土方は胸を張る。
何も間違っていないぞ!

「本当か?晴太?」
「うん。このおじさん、ここ初めてみたいだよ?」
「………分かった。案内する…」
「あ、ありがとう…月詠さん…あなたは一体?」
「わっちはここの自警団「百華」の頭、月詠でありいす。
吉原桃源郷の遊女たちの警護と治安維持を任されている。
今後はお見知りおきなんせ」

月詠は小さく会釈する。
「お武家」と聞いて、どうも土方に自分と同じような匂いを感じたのかもしれなかった。
目付きが柔らかくなった。
ますます月詠が美女であると土方は思うのだが…なるほど、俺と同じような仕事ではないか…

この姿で、剣をふるうのか。その姿で賊を追い詰めるのか。
そして吉原桃源郷の自警団の頭とな!
…土方はますますこの月詠に好感を持った。

「さ、行くよ。こっちでありいす」
土方は晴太に振り向く。
「ありがとう。助かったよ、晴太くん。これはお礼だ」
土方は晴太に小銭を握らせようとすると…
「ううん、おじさん。でもチップなら要らないや」
「え?」
「ねえ、それより何か買ってくれない?その方が嬉しいんだけどもお~。
縄、縄どう?銀時たちと布団の上で縄飛びするのにいいよ、これ!」
「…ああ……もらおうか…」
なんと商売上手なんだ、てめえは…
「どうもありがとうございましたっ!おじさん!銀時たちによろしくね~♪」
…手まで振られてしまった…

だが俺はおじさんではないぞ!まだ!



「で?どんな子がいいんだい?」
お登勢がギロリと睨むように土方を見る。
「ああ…その…色の白い…ふわふわした感じの…」
土方は今更ながら照れてしまう。
だがいきなり「白い髪、赤い瞳」などと言ってしまってはまずいと判断した。

「ああ…分かりました…では少々お待ちを……たま、急いで京次郎を呼んでおくれ。
銀時に支度させてって」
「はい、お登勢さま」
からくりメイドではないか。これもまた美女だなあ…ふむ。
女将は相当の手練に見えるが…その…年も……

「刀は預かることになっている。こちらへ」
土方は一瞬躊躇する。
兼定を渡すには…と思うが仕方がない。
「前金です。泊り?それとも休憩?」
「…と、と、泊りで…」
「はい分かりました、○○○○○円で」
「…」(この金額があの少年の一晩の値段か…)
「たま、お客さんにお酌を…」
「はい。こちらへどうぞ。ビールでいいですか?」
「ああ、頼む。それから部屋へ何かお菓子と飲み物を…その子は何が好きなんだい?」
と、懐からまた財布を出す。
その金払いの良さにいっぺんにお登勢の態度が変わった。

「ああ、お武家さま。銀時の好きなものは、いちご牛乳と饅頭なんですけど…」
「了解しました。ではたまさん。お手数ですがそれを買ってきてくれませんか?
釣りはいいので」
さっと金を渡す。
「はい、では行ってきますです、お武家さま」
たまは丁寧にお辞儀をする。
お登勢もお辞儀する。


…待たされることしばし、部屋へ通された。
特に妓楼らしい装飾もあまり無い部屋だ。
座卓に座布団、花模様の屏風、そして中央に敷かれた布団…
だが生々しいもんだ…と土方は思う。
こういう所が初めてではない土方だったが、あの小さな白い少年が自分の予想通りに陰間だったことが、その生々しさを呼ぶのだろう。
この部屋で彼は、いつも…と考えると動悸までしてくる始末だ。
ああ、落ち着け、俺!


何をして待っていたらいいのか分からない。
震える手で袖からタバコの箱を取り出すと、襖の向こうから声がした。
「お待たせしましたあ…銀時でえええ~すう」
すっと襖が開く。
ああ、あの少年だ!
土方は慌ててまたタバコを落とす。
「あ、あの時のおじさんだ!またタバコ!」
「あ、ああ…あの時は失礼したな、な」
「また落とすなんてさ、おじさん手、おかしくね?」
「いやあ…あはははは~」

ああ、この子だ。
ふわふわとした銀髪、赤い瞳。今日は薄く口紅を引いている。
だがなんという白い肌。
目元もうっすらと紅く染まっていて、とても綺麗だと土方は思った。
それになんと、自分を覚えていてくれていたとは…!おお!
土方の動悸はますます激しくなる。


「あ、いちご牛乳だ!饅頭まである!どうしたのこれ?おじさんが買ってくれたの?」
「ああ、そう、そうだ、好きだと聞いてな」
「うわあい、どうもありがとう~」
銀時がさっと手に取って飲み始める。
「うま~!俺、これ大好きなんだ!」
「そうか…良かった…たんと飲め」
「はいい~、ありがとうございます!後でいっぱいサービスさせてもらいますっから!」
「あ、はあ、あはははは~」
笑うしかない土方だった。

「おじさん、よく俺の好きな物知ってたね?」
「ああ、女将から聞いたのでね。あの女将は身内かなんかか?」
「ううん。俺たち引き取られたの、ここに…むしゃ」
「たち?何人も一緒にか?」
「うん、そう。3人で来たの」
「…引き取られた?…親はどうした?」
「火事で死んじゃった」
「……そうか…悪いこと聞いてすまなかったな…」
「ううん。俺たちここに来る前にはさ、先生が育ててくれていたので寂しくなかったもん」
「先生…?」
「そう。むしゃ。田舎でみんなで暮してたんだけど、事情があって江戸へ来たの…むしゃ。
でえ、ここでみんなで先生を待ってるの」
「…先生はどうしたんだ?」
「幕府に連れて行かれた…て聞いてる…」
「!」

何だと?てことは犯罪者か…?こ、これは…
俺が警察だなんて言ってはならんな!断じてな!(汗)
おおっと話題、話題を変えなくてはまずい。


「…ええっと…名前…銀時って言うんだね?」
「はい、銀時です。おじさんは?」
「…!と、ええと、トシだ。トシ」
「はい、トシおじさん」
「あのなあ、そのおじさんはやめろ!まだそんな年じゃねえ」
「はい~、じゃあ、そんなトシじゃないトシさんで」

くすくすと笑いながら銀時は饅頭を頬張っている。
笑うと格段に可愛らしくなる。
丸みのある白い頬、あんこがついているぷっくらとした唇、白くてふわふわと揺れる髪、
緩んだ襦袢から見える白い胸元…!

「ごちそうさまでした!では!」
銀時は口元をさっと拭うと、いきなり襦袢を脱ぎ捨ててしまった。
まっ裸で土方の目の前に立っている!

「おわ!おお、おい、待て待て待て~~!」
「え?何で?トシおじさん、それが目的でしょ?」
「まあ待て待て。それと『おじさん』を省けと言ったろう?このお!」
最初にちゃんと言っておかなくては!な、こういう事は。

「ああ、すみまっせ~~ん。また言っちゃった…あはは。御馳走になったしね、ではトシさん」
今度は土方に飛びこむように抱きついてきた。
ふたりとも布団の上にもつれるように倒れこむ。
銀時が上で土方が下だ(笑)
「おわあ~っ」
こ、心の準備とかがあるじゃないか…まったく…
土方は焦るが銀時の方は早速土方の着物の裾に手をかけて…

「ちょ!ちょっと待ってくれ、銀時くん…」
「え?トシさん不能なの?大丈夫だよ?俺って口取り上手いって言われてるから、すぐ勃つよ?」
「ち、違う、断じて違う~」
土方の方が少年に抑え込まれている。
銀時が不思議そうに顔を覗き込んでくるが…
「良く聞け…まあ待ってくれ…話を…」


そこで土方は気が付いた。
銀時の身体のあちらこちらに残る内出血のような赤黒いアザ、
爪痕のような細く赤い傷が無数に付いている…
胸に首に腕に脚に…

「……どうしたんだ?まだ新しい傷じゃないか…」
「ああ…ちょっと…何日か前に来た客に乱暴されちゃって…」
「…!」
「だからあ…すみません…俺、普段はもっと綺麗な身体だったりするんですけど~、
今日はちょっとだけ傷持ちってことでいいでしょうかあ~?」
銀時が僅かに申し訳なさそうに微笑んだ。
「ちょっとお…痛がったりするかもしれないんですけどお、
気にしないで突っ込んでいいですから。ね?トシさん…」
「待て銀時。俺はそういうのを気にする」
「え?…じゃあチェンジってこと?俺、それ困る…」
銀時が泣き出しそうな顔付きになる。

あああ、泣かんでくれ、頼む。
ああ、虐めてるのは俺なのか?俺なのか?
泣いた子どものあやし方なんて知らないぞ、俺は!

「ち、違うぞ銀時…チェンジなんてしねえ…」
「ほんと?ほんとにほんと?」
「ああ、ほんとだ…だから安心しろ…な…」

土方はそっと銀時の髪に触れた。
見た目通りの、細くてくるんとしたクセのある、柔らかい髪だった。
「…痛かったろうに…なあ…」
次に土方は銀時の胸元の傷に触れた。
銀時はその土方の手に自分の手を重ねた。
自分とは違うまだ幼い手に、土方の胸は詰まった。

「こんなの良く有るし…平気…」
「…良く有る?」
「…大丈夫…こんなの…ここに置いてもらっていれば、先生を待っていられるし…
ご飯も食べられるし、温かい布団に寝られるし…だから平気…」


そうだろう。
金で買われる以上、客の無謀な要求にも黙って応え、笑っているしかないのだろう…
子ども故、ひとりで生きていくことは出来ない。
だからここを逃げ出すことも叶わない。
ましてや先生が迎えに来てくれるまでここを離れられないという切ない思い。

土方は銀時が想像以上に重い事情を抱えているのを知り、胸が痛くなる。
いやここに居る陰間、遊女、他の人間たちにも地上では生きられぬ深い事情があると聞いていたではないか。
地上での生活を棄てる程の、重い事情が…


「でもね、そうでもない日もあるの。吉原のお姐ちゃんに買ってもらえたり、ね」
「お、お姐ちゃん!」
「ああ、ちょっと年のいってるお姐ちゃんね。本当はもうおばちゃんなんだけどさあ~」
銀時が寂し気に笑う。
「ふるさとに、子ども残して来ちゃったんだって…
でね、そのふるさとに居る子どもと俺らが同じぐらいの年だからって…
一晩中さ、抱きしめられて、寝たりするんだ…」
「……うん…」
「で、名前呼ぶの…その子どもの名前…何度も何度も泣きながら呼ぶの…
だから俺も『母ちゃん』って呼んだりするの…」
「…そう…か…」

その遊女の気持ちも、死んだ『母ちゃん』を思い出すだろう銀時の気持ちも分かる…
この布団で共に、泣きながら一夜を過ごすのか…
なかなかに陰間の仕事は奥が深い…と土方は率直な感想を持った。


「で?トシさんは何で俺を買いに来てくれたの?」
「…あの時…な、ほら兎の像のとこですれ違ったろ?」
「うん」
「…俺もな…その時、弟のこと思い出したんだ…」
「弟?トシさんの弟?」
「そう…俺にも年の離れた弟が居るんだが…やっぱりふるさとに置いてきたもんでなあ…」
「…その弟、なんて名前?」
「……『勲…いさお…』って言うんだ」

すまん、近藤さん、許してくれ!
だってよ、なんだか話がそういう方向に向いてしまったんだ。
もうちょっといろいろとこの子から聞き出したいじゃないか…!

そう、そうなんだ、俺は俺は、この子としたいとかそういうんじゃなくて、ああ、したいけどもそれが目的じゃないっていうか、ああ、したいけどまだそれは後回しでもいいっていうか、ああ、だからしたいけどもね、今はもっと話していたいっていうか、ああ、ああ、したいけどねえ、したいけどお…と
土方の心の中をたくさんの言い訳がかけ巡る。
銀時が静かに土方を見つめている。
赤い目が美しく光る。


「勲くん…いくつ?」
「ええと、と…12歳…だったかなあ?」
「じゃあ、俺のこと、『いさお』って呼んでいいよ?どんどん呼んでいいよ?
俺も『お兄ちゃん』って呼ぼうか?その方がいいでしょ?」
銀時が乗り出すように話す。
自分に出来ることが見つかって嬉しいというような口ぶりだ。
まっすぐに自分を見つめてくる瞳に、胸が高鳴った。


「…いや…いいや…」
「え?何で?」
「思い出すと哀しくなるから…さ…」
「?」
「勲…な…もう死んじまったんだ…お前ぐらいの年で」

なんと名作だ。
なんと名演技なんだ、俺!泣けるじゃないか!
これなら銀時を一晩中抱きしめていても不能には思われまい!
すまねえ、近藤さん。死んだことにしちまって。
もうちょっと名前を貸しといてくれ!


土方がひとりで自分の名(迷)演技に酔っていると、銀時の目がぶわっと潤んでくる。
えええ?また泣かした?俺!ま、まずい~~!

はっと気が付くと土方は銀時に抱きしめられていた。
細く白い腕が自分をしっかりと抱きしめている。

「トシさん…大丈夫…大丈夫だから…ね…俺が居るからね…
今夜はずっと俺がそばに居るからね…」

あっけにとられて土方はそのまま銀時に抱きしめられていた。
だが心の中を温かいものがじんわりと満たして行くのを土方は感じた。


俺が抱きしめられている…
俺の心が抱きしめられているのだ…
俺よりもずっと過酷な運命を生きているお前が、
俺の寂しさを包み込むように抱きしめてくれている…


「銀時…」
そっと土方も銀時を抱きしめ返す。
細い細い肩だった。

ああ…温かいな…温かいよ、お前は……




銀時に抱きしめられたまま、土方は
身動きもままならぬ時を過ごしたのだった…






「ふふ…面白いよネエ…地球人って…」
「面白いって…だからってもう俺はあんなことは御免だぜ…?え?団長…」
「ふふん…布団の中で団長って呼ぶなっていつも言ってるだろ…?
早く突っ込めって…くすっ」
「…へえへえ…」


神威と阿伏兎は吉原の奥深い旅館の一部屋で抱き合っていた。
阿伏兎は神威の部下だ。
年齢は不詳だが生やした顎髭、不遜そうに笑う口元から、神威よりは相当の年上と思われる。
同じく戦闘種族、夜兎。
白い肌、傘。
たくましく鍛えられた身体つき。
その太い腕が神威の腰をぐっと掴み、穿つ。


「こんな…吉原みてえな所で、なあ~んで男同士でヤッてるんだか…俺たちは…」
「いいでしょ?あ…そういうのも一興…で、阿伏兎は…いい子見つけたの?くす」
「そんな暇あると思うか?あん…?俺はナア、団長に言われて江戸で薬売りよ……なあ?」
「…あんなに効くと思わなかったけどね…天生郷…」
「春雨の開発した媚薬だ…地球人に効かねえ訳あねえ」
「あ…もっと…阿伏兎…」
「団長…お前も天生郷やってるのか?…だとしたら、もう止めろ…死ぬぜ?…」
「だってえ…イキたいんだもん…あ、ああ…」

阿伏兎が強く神威の身体を揺さぶる。
深く抉られて、神威の身体が跳ね上がった。

「イキてえ…って…はっ…まったくよお…おまえは…見境…ナシだなあ…」
「いいじゃん…俺、これ大好きだ…」
「ふふ…」
「くっ、あっ…だってね、やるのもやられるのも大好きなんだもん…
男も女も子どももいいね…く…」
「お前が見つけた…面白い地球人って…?」
「くすっ…ふ…今は秘密…はっ」
「まあた無謀な遊びを見つけたんじゃあるまいな?…団長?
俺はもうこりごりだ…く…」
「俺さ…ここ気に行っちゃった…
やっぱり鳳仙やっつけてこの吉原もらっちゃおうかな~って思ってる…」
「…ヲイ…やめとけ…」
「そしたらさあ…何でも自分の思い通りになるじゃん…日輪とかにももう一度会いたいしね…
あの鳳仙のじじいがナリ潜める程、いい女だったっけか?俺、日輪も欲しいな~…」
「日輪に手え出したら、生きてらんねえぜ?…団長…そりゃあ俺が困る…
第七師団全員が…路頭に迷うぜ…?」
「ふふ…冗談…だよお…あ…あっ」
「勘弁しろ…ての…いつも…俺たちゃあ団長の…尻拭いばっかりだ…」
「あ、ああ…!」

神威のほどいた髪が揺れる。
ふたりの汗が飛び散った。















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目覚めなければいい その9

この連載小説は 冬コミ08.12/29にて「本」の形で発行いたします。
詳しくは次回に。
または http://www.mizukijoe.sfcgi.com




「あ、先生、ちょうちょだ!」
「ああ、白い蝶ですね、名前は…」
「もんしろ蝶だよね?先生」
「ええ、小太郎、良く出来…あ、あぶない!」
ばちゃんと小太郎が小川に転がり落ちた。
「痛…」
びしょびしょになって袴をたくしあげる。
滴り落ちる大量の水。
「バッカじゃないの、ヅラ!いひひ」
「ヅラじゃない、桂だ!」
「銀時、ほら、拭くのを手伝ってあげなさい」
「へいへい…てか、脱がなくちゃダメだろ?そこまで濡れちゃったんなら~」
「先生、あっちには黄色いちょうちょが…」
ばちゃん!
晋助も川に落ちた。
「え、ええ~ん~」
「ああ、泣くな、晋助!まったくお前はもお~!」
銀時が晋助の手を引っ張って助け起こした。
が、晋助がその手を思いっきり引っ張ったので、今度は銀時が…
「あ、こらっああ~!」
ばちゃん!と3人目も川に落ちた。
「…君たちったら…」
松陽がくすくすと笑う。
3人も揃って笑う。
大声で笑う。


銀時、小太郎、晋助は親のいない子どもだった。
それぞれの親は、少し前にあった大きな火事で、亡くなった。
養い親である吉田松陽は、身寄りの無くなった3人を自分の子のように愛し慈しんで育てた。
村里の奥、小さな家屋に仲良く暮らしていた。

松陽のことを3人は「先生」と呼んだ。
何故なら炊事、洗濯から火の熾し方、畑仕事など生きていく為の諸事一般から学問や武道まで、
広く深く教え込まれたからだ。
それらは「いつかきっとあなた方の役に立つ日が来るのですからね」という言葉で締め括られた。

松陽はその思想において穏健で思慮深い考察を持ち、
剣道は厳しくも正しい方向性のある剣筋、更にその生きざまや表情まで、尊敬に価う人物であった。
その指導は幼い彼らにも厳しく、生易しいものではなかったが、
3人は互いに助け合い、励まし合って暮らした。
それを松陽が優しく見守ってくれていたのだ。

だが、その松陽の思想に対し偏見を持つ一派から、命を狙われるようになる。
松陽と3人は、この平和な暮らしを捨てなくてはならなくなった。

「今まで大変お世話になりました。さあ、みんなも御礼を言うのですよ」
「お世話になりましたあ」
3人も揃ってペコリと頭を下げる。
「吉田先生…あなたのような方が…逃げるように…」
村の庄屋である翁が悲しそうな目で見送る。
「よろしいのです。今まで無事に暮らしてこられたのは、すべてこの村の人々のご親切があったからこそ…。
その主である庄屋さんのおかげであると、深く深く感謝しております。
どうか今後もお健やかにお暮らし下さいますよう、お祈りいたしております…」
松陽が丁寧に頭を下げる。
「もったいない…吉田先生…どうか皆、ご無事で…」
「はい、それでは…」
「さようならあ~」

家をたたみ、旅装束に身を固め、4人は東へと旅立つ。
だがその表情は明るいものであった。
どこへ行こうと、どこで暮らそうと、3人には松陽が居ればそこが家だ。
嬉しいことも、たとえ悲しいことが起こっても、松陽が居ればそれで良かった。
親を亡くした後も3人がいじけずに育つことが出来たのはこの松陽の教えの賜物だ。

「常に自分の正しいと思った道をまっすぐに歩けば、
おのずと明るい未来が見えるのですからね」
「はい」
「だからきっと、3人の行く末は明るいものですよ」
「先生も、ですね?」
晋助が無邪気に笑う。一瞬松陽は戸惑いを見せたが、皆は気がつかなかったろう。
「ええ、私も、ですよ。みんなと一緒に居られるのは、なんと幸福なことでしょう」


野を越え、山を越え、川を渡り、4人は東を目指す。
どんどんと、元気よく進む。後を振り返らずに、真直ぐ進む。
雨の日も風の日も、松陽が居ればどんな境遇でも幸福になれた。
松陽の「何事にも感謝を忘れずに」の言葉は、その穏やかな口調も相まって、
3人はいつも心が温かくなった。
野宿も遠足のようで楽しい。
小さな洞窟のような所で身を寄せ合って眠ることが出来るのも楽しい。
川で魚を釣ったり、木の実を採るのに木に登るのも楽しい。
食べられる草を教えてもらいながら、皆で競争しながらむしるのも楽しい。
雨が降れば「無理をせずに今日は『お話の日』にしましょうね。むかしむかしある所に…」と松陽が語り始める。
そんな日はとてつもなく楽しい日だった。
松陽の話は尽きること無く、そしてどれも3人の心を喜ばせるものばかりだった。
「ご飯に…」と、野兎を捕まえてさばくのはちょっと怖かったけれど…

道を行くと稲刈りの田畑、そこで皆は一日お手伝いをしては夕餉をふるまわれた。
久しぶりの米飯だったので、皆は大喜びで食べた。
馬小屋を借りて、屋根の有る夜を過ごすことも出来た。
「万事屋でえ~すう~何でもやりますう~、ご用件は有りませんかあああ~?」
と銀時が叫びながら歩く。たいていの村にはひとつぐらい、何かしらの仕事が入り、
その日の糧を得るぐらいの賃金が入った。
働いてお金をもらう…自分の力、汗が役に立つ。
それを覚えた。
こうして小さいながらも彼らは多くの人と交わり、さまざまな仕事をこなすことを覚えた。


晴れた日の青空を見上げては喜び合い、夕焼けに染まる山々を愛で、飛び交うトンボを追いかけては笑い合い、雪化粧した野山の美しさにため息をつき、突然の雷雨に晋助が泣くのをあやし、松陽の話すおとぎ話を最後まで聞かずに眠ってしまったり…
互いの温もりがこの上なく温かく、幸福だった。
土地を追われた惨めさなどは微塵も感じられない、
4人にとってこの旅は、生涯忘れられぬ思い出となった。

更に進むと小屋を建てるお手伝いもした。
時には子守や店番、屋台の売り子などの仕事もした。
3人は小さいながらも良く働けるし、何より明るく元気だったので、どこでも快く迎えられた。
時には風呂を頂き、部屋を宛がわれて布団の中で眠ることさえ出来た。



「皆さん…なんと親切なのでしょう…私たちはなんと恵まれているのでしょうね…」
「はい、先生…」
「本当に…でもみんなは疲れていませんか?」
「大丈夫ですっ!な?」

ふたつの布団に4人で並んで寝ている。
松陽の布団には誰が寝るかで大喧嘩があったのだが、
じゃんけん勝負は公正に松陽の監視の下で行われたので、
負けた小太郎、晋助はしぶしぶ銀時にその王座を譲ったのだ。



「君たちに…ひとつの魔法をかけてあげましょう…」
松陽の改まった言葉に皆いっせいに起き上がる。
「先生、魔法ってなに?魔法って?」
「何それ?食べ物がちちんぷいぷいってやると出てくるとか?」
「背が伸びる、とか?」
3人は興味深々だ!
「これはですねえ…とっても大事な時にしか使えない魔法なんです」
「へええ?」
「それもですね、ただ一回しか使えないのですよ」
「ええ?」
「ですから、『ここぞ!』という時にしか使えませんからね、よく覚えておいて下さい。
あのね…………………」


松陽の説明が続いた。
それは納得がいくようないかないような、とっぴなものであった。
だが松陽が言うのだ。
きっと間違いは無いと思う…


「ではそれぞれに、その魔法の呪文を決めましょうね。銀時は何がいいですか?」
「いちご牛乳腹いっぱい飲みてえ」
「がはは!そりゃお前らしくていいなあ!」
「うるせえよ、いいだろ?にひひ」
「じゃあ次は…小太郎は?」
「ほら、いつも言ってるヤツがよくね?ヅラ?」
「『日本の夜明けは近い』だろ?それいいかもよ?」
「でもしょっちゅう言う言葉はダメだよな」
「あ、そか、そうだよな。魔法がかかっちゃう。銀時、気をつけろよ」
「ああ、何にしようかなあ?」
3人は真剣な面持ち。
「じゃあ晋助は…」
「『先生大好き』だろ?決まってんじゃん」
「このやろ!あ、それでいきます」
「ということは、もう言えないってことだぞ?」
「あ、そか、そりゃ困る。じゃあっと…………にします」
「じゃあ俺は…………で」
「俺はそのまま『いちご牛乳腹いっぱい飲みてえ』で」
「分かりました…では…」

先生が目をつぶった。
そしてもにょもにょと口の中で呪文のようなものを唱えて、両手を合わせる。



……しばらくしてそっと目を開けて微笑んだ。
「いいですか?これはただ一度だけの魔法ですよ。ほんとに『今こそ』という時に、
つぶやいて下さいね?この魔法がかかったら元には戻れません。いいですね?」
3人は大真面目な顔でこくんと頷く。松陽はひとりひとりの頭を撫でながら祈る。

「『いちご牛乳腹いっぱい飲みてえ』…銀時に幸福を」
「『…………』…小太郎に幸福を」
「『…………』…晋助に幸福を」


「さてこれでお終い。さあ寝ましょうか」
「はあい…って先生これ本当の魔法なの?」
「本当ですよ。その時が来たら分かります」
「ふううん…」

その後ももしゃもしゃと話しながら、やがて皆眠りについた。
布団が温かくて幸福だった。


「…銀時…寝てしまいましたか?ぎんとき…」
「…?え、お、起きて…るけど…むにゃ…」
「……銀時…君に…言っておきたいことがあります…」
「…?はい?何?せんせい…」
「今後…私に何が起こっても…みんなと仲良く生きていく為に…みんなを護って下さいね…」
「え?何で急にそんなこと…」
銀時は不安になって松陽の顔を見た。
だがいつもと変わらぬ、穏やかな笑みを浮かべているだけだった。

「君はいちばん剣術が強かったから…この先に闘いなどが起こっても、
きっと皆を護ることが出来るでしょう」
「せんせい…俺たち、みんな強いよ?」
「…そうでしたねえ…強かったですねえ…でも銀時ならば…
小太郎は優しいし、晋助はどうも臆病です…その点あなたはいつもやんちゃですから…」
「きっとひるまないで闘えるって?くすっ」
「そうですよ、銀時。そういうことです」
「わっかりました、せんせい~」
「あ、ありがとう…」

銀時は松陽に抱きついた。
松陽も抱きしめてくれる。
今夜じゃんけん勝負に勝ったことは、この上もない幸運だったと銀時は心底思った。
…松陽の肩が小さく震えていたのが気になったが…





銀時は泣きながら目覚めた。

ああ、あんなに楽しかったのに…
どうして先生は俺たちを残して行ってしまったの?
 もう、もう会えないのですか?
…先生…
もう一度、その手に触れたい。
もう一度会って、抱きつきたい。
もう一度頭を撫でてもらいたい…
本当に死んでしまったのですか?
嘘ですよね?
そんなの、嘘に決まってますよね?先生!


はっと気がつくと隣に横たわる小太郎が、エリザベス人形を抱きしめながら、
何やらぶつぶつと小さくつぶやいている。

『皆さん…なんと親切なのでしょう…私たちはなんと恵まれているのでしょうね…』
(桂裏声・cv/石田彰)
「はい、先生…」
『本当に…でもみんなは疲れていませんか?』(同)
「大丈夫ですっ!な?ぐすっ」
『みんないい子にしていますか?…』(同)
「はい、いい子にしています!ひっく…」
『もうすぐ帰りますよ、待っていて下さいね』(同)
「はい、せんせい…うぐっ…え、ええん、ええん…せ、せん…せい…」
『それまで…元気で…いて下さい…ね…』(同)
「はい…せ、せん…せ…ええん、ええ…ん…」


銀時の目から新たな涙が溢れた。
涙は後から後からどんどんと出て、枕を濡らして行った。
その向こう、晋助も小さく寝言を言っている。泣いているような声。
「せん…せい…」
その声に気が付いて、小太郎が一層その身を震わせた。


ああ、俺たち、今、同じ夢を見ていたのだな…
あの、幸せな夢を見ていたのだな…

あの、夢のように楽しかった日々
ああ、あれが本当の夢ならば
もう二度と目覚めたくない
目覚めなければいいのだ
もうずうっとずうっと
その夢から目覚めなければいいのに…
そうしたら、こんな辛い日々に怯えることはないではないか
ずっと幸福な日々が過ごせるではないか…
けれども朝は誰にも等しくやってくる…
これが現実だ…夢じゃない…

銀時も小太郎も晋助も、
後から後から湧き出る涙を止めることが出来なかった…





「そうかい…で、銀時はどうしてる?」
「へい…手当てしてやって…部屋に戻りました。
小太郎もだいぶ熱が下がった様子で…」
「ご苦労だったね、京次郎…」
「いえ…」
京次郎は頭をひとつ下げて、裏へ消えて行った。

カウンターに腰掛けていた月詠が大きなため息をつく。
「……ふう…」
「ほんとに…こんな仕事をさせないでおけば良かったと思うけどねえ…
だけどうちはこういう見世だしね…まったく…」
お登勢が煙を吐きながら頭を抱える。

「松陽先生も…残念なことをしたよ……」
「女将…その男ってどんな奴だったでありいす?」
「はたち前ぐらいじゃないかねえ?色の白い男だったよ?
桃色がかった薄い色の髪をおさげに結って、チャイナ服のようなものを着て…あっ!」
「…そう…神楽に似た感じだったのでは?」
「そうだ、そうだよ。道理で初めて見るような気がしなかったんだ。
そう、神楽に良く似た、白い肌の明るい色の髪、チャイナ服…
そうか!そうだよ!ということは…」
「…夜兎…」
「…そうだ…そうに違いないよ、月詠!」
(…神威…!)


月詠の胸に苦々しい思いが湧き出でる。
晴太がこの吉原へ侵入した際に起きた、日輪の側月詠達「百華」と鳳仙との壮絶な闘い。
その闘いでどちらの味方にもならず高見の見物をしゃれこみ、
にこにこと笑いながら容赦なく罪も無い多くの遊女たちを殺した神威。
鳳仙の弟子と聞いたが、その憎み合う師弟関係はおぞましいものが有り、
笑顔の陰に並々ならぬ戦意を抱く、最も危険で最も憎むべき男だ。
この宇宙一大きな悪の組織「春雨」の幹部と聞いている。
夜兎族の最も強き戦士「星海坊主」の息子。
その父親である「星海坊主」の片腕を落としたのも、この神威なのだ。

(と、いうことは…やはり神楽の探している「兄」とは神威…
「パピー」と呼んでいる彼女の父は星海坊主…)
月詠は夜兎族である神楽の肌の白さや喧嘩っ早いその性格やらを思い出し、合点がいく。

…その神楽の兄が、あの神威なのか?…!
この吉原桃源郷に兄が来ているのを、神楽は知っているのだろうか?…
そして何故いま、また神威がここに…?
まさかまたこの吉原で何かを企んでいるのでは?

月詠は不安に眉をひそめる。
やっと落ち着いた生活が送れるようになってきた日輪と晴太だ。
そして多くの遊女たちだ。
鳳仙も、前のとげとげしい様子を納めてくれているというのに、またここで神威と対峙したら…
いったいどんなことになるのだ?
また戦闘が始まったら…
またどんなに多くの死者を出すことになるか…!


「女将、神楽には昨夜のことは内緒にしておいてくれまいか?
いや、神威が再び吉原に現れたことは、今はまだ誰にも知られない方がいい…
頼めるでありいすか?」
「ああ、いいけど…月詠?」
「わっちが…何とかしないとならないかもしれない…ふむ!
その時まで…頼みます!」
「分かったよ」
「はい。誰にも言いません。月詠さま」
たまが場違いな発言をした。

月詠は風のように走り去った。











 

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