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「俺は行かない。阿伏兎に任す」


いつもの神威の心理状況なら大体の事は把握出来るつもりでいたけれど、
今回の件については阿伏兎にも簡単には理解することが出来なかった。

あんなに暴れることが好きで、傘を振り回すことが好きで、
更に仕事だろうが何だろうが敵の命を屠ることに何の躊躇などしない神威が。
それも自分が第七師団の団長職に就いてから、いっとう最初に侵略に向かった星、モナマリア星。
その星に起きたクーデターを鎮圧に出掛ける仕事に、自ら出向かないとは…

最初はひどく混乱した。
だがその理由を聞いて、ゆっくりと、そうゆっくりと納得することが出来た。
…そういう訳があったのか…

阿伏兎は考える。
第七師団のメンバーにそれを話す必要があるだろうか?
話さなくてはならないことか?
団長の個人的な理由…そうだ、個人的な問題だと判断した。
戦闘に於いて、話さなくてはならないことならば、団のメンバーに即刻話している。
そして作戦を立てることが出来る。
第七師団筆頭参謀であり、団長神威の最も近くに配置されている阿伏兎に、その権限もある。
だがこの場合、安易に話す事は避けようと判断した。
取りあえず「今」は、自分ひとりの胸に収めておこう、と。



ここは春雨の総元締めとなる戦闘要塞星TX・Ⅰである。
巨大な遊星であり、各団の詰め所が配置され、各々の宇宙船や戦闘機のメンテナンス場でもあり、
会議の場ともなる。
各団への任務はここで発せられ、戦闘の報告や情報も全てここに集まって来る。
元老からの収集命令があり、第七師団も赴いた。
ここでモナマリア星で起きたクーデター鎮圧の任務が発表されたのだった。
第六師団と第七師団が共に向かうことが決定された。



第六師団と第七師団はあまり仲が良くない。
いやめっぽう仲が悪い。
いつか必ず殺し合いでも起きるのではないかという状態だ。
それはかつての第七師団長であった鳳仙が居た頃からだ。
鳳仙は春雨を引退し、現在は地球で隠居暮らしをしている。
そして団長職は神威に引き継がれ、もうかれこれ5年。
神威が第七師団団長職に任命されたのが15歳の時だったが
幼かった神威も成人し、その後の団の任務は滞りなく進められ、きちんと遂行されている。
なのにふたつの団は未だにその鳳仙の時代の険悪な関係も、
きちんと引き継がれているのだ。


第六師団の団長は玄州という。同じく夜兎族。
鍛え抜かれた巨大な身体つきとその荒々しい性格は、やはり同じ夜兎族である鳳仙と、
その戦闘能力、抑止力とも互角と言われている。
年合いもほぼ同じ。
若い頃からその力だけですべてを手に入れ、他を抑えて来た歴戦の夜兎である。
同じような力を持つ者同士が仲良く出来ないのは当然であるとしても、
神威が団長職に就いてからもそのライバル視が延々と引き継がれているのは妙なことであるのだが。
若くとも他に類を見ない神威の底力を見抜いて居るからだろうけれども。
玄州の第七師団を見る鋭い目つきは前と全く変化していない。


神威が団長職に就く前から第七師団長の鳳仙の元に籍を置いていた阿伏兎には、
これらの様子が非常に良く見て取れる。
新団長の神威に対しても、かつての鳳仙に向けられていた非常に大きな敵対心はそのまま、
いやそれ以上に巨大化しているように見えた。
事有るごとに第七師団と第六師団を比べたがり、牽制して来る。
同じように力のある夜兎族を多くその団に従え、元老からの仕事を横取りするような態度も、
神威への辛辣な噂を流すのも、第六師団の手回しが隠れているだろうということは、
阿伏兎には充分に想像出来るのであった。

要するに、鳳仙が、神威が気に入らないのだ。
特に宇宙一のえいりあんばすたーと言われている神威の父、星海坊主の功績も気に入らないし、
その優れた血筋を引き継いでいるらしい神威が鳳仙の弟子になったのも気に入らない。
そしてまんまと鳳仙の後を継ぎ、若くして才能を見込まれて団長職に採用された
驚くべき早さでのその昇進ぶりの神威がもっと気に入らないに違いない。
そしてその美貌も、だ。
魅かれているからこそ気に入らない。


当の神威はと言うと。
玄州の露骨なその敵対心を知ってか知らずか、いつもにこにことしている。
いや誰に対しても同じ顔なのだが。
皮肉交じりの玄州の言葉もひらりとかわして笑い、むっとしている様子は見られない。
が、おそらく心の中でこの野郎!と思っているのではないか?とも思うが、
あの神威のことだ、本当に大して気にしていないのかも知れぬ。
全く我が団の団長職である神威の、本当の心中を測れる装置でもあったら、
給料全部をはたいてもいいぞと阿伏兎はいつも思っていた。




そのふたつの団が揃って同じ任務に出向くことになろうとは。
それも団長である神威が出向かないとなると、ことはどんなふうに動くのか。
先程、会議場を立ち去る時に見せた、玄州の薄気味悪い笑顔。
側近とにやにや笑いながら、神威を睨むように見ていたあの顔には、底知れない悪意が滲んでいた。

頭が痛くなる!


そんなこんなをぐるぐると考えていたところに、第七師団のメンバーである輝青(きせい)がやって来た。

「で?…団長は何と?阿伏兎筆頭」
「…ああ…青(あお)…」

会議場から団員らがおおむね退出し、重い足取りで廊下を歩いていた阿伏兎に、輝青が話しかけて来たのだった。
輝青は神威がまだ幼い頃、鳳仙の元で修行中であった頃に、
闘いの修練の相手としてやってきたことのある、深い信頼のおける団員であった。
黒い髪にメガネをかけた、高い身長の若者である。
にこりと笑うととても親しみやすい顔になる。

当時、やはりまだ10代であった輝青は、鳳仙にその実力を見出されて春雨に勧誘されていた。
輝青の父は鳳仙の部下で力のある戦士であったが、大きな戦闘に於いてその命を落とし、
息子である輝青に鳳仙は第七師団への入団を勧め、神威の住む屋敷へと行かせたのだ。
神威よりも5歳ほど年長である輝青の、清々しい性格と実力を見抜いていた鳳仙は、
その闘いの修行の相手として選び、
寂しく暮らす神威の遊び相手としてもふさわしい青年であることを充分に心得て神威の元へ送ったのだった。

阿伏兎にもその鳳仙の考えは深く理解出来るものであって、修行の成果は非常に大きなものであった。
神威は手応えのある修練の相手を得、さらに兄のように接してくれる輝青をこよなく信頼することが出来、
心身ともに満足の行く修行が出来たのだ。
ふたりの大人の夜兎にとってもそれは同じで、
将来神威の部下として充分にその能力を発揮出来る人物としての査定は成功した。
鳳仙の思惑通りに、神威の修行の相手になることにより輝青の入団への迷いは立ち消え、
彼自身も入団前に修行を積み、晴れて新団長神威の部下として入団を許可された。


輝青は父が夜兎族であり、母は地球人であるという。
母親の故郷である地球は青い空も海もある、非常に美しい星である。
その故郷をしのんでの命名であった。
ハーフではあるが、その高い戦闘能力は夜兎族のそれと比べてもまったく遜色は無い。
そうして神威が団長職に就任した際、正式に第七師団の団員となり、それからというもの、
神威の側近として非常に優れた戦闘能力とその温和で親しみやすい性格から、
第一部下として阿伏兎の真下にいる云業と共に第七師団の最も有力な団員となり、日々働いているのだった。


阿伏兎も、神威と同じくこの輝青を「あお」と呼んでいるのは、その深い信頼の篤さから来ている。
輝青も阿伏兎が筆頭参謀であることを踏まえながら、家族のようにその心情を包み隠さずに話す事が出来るのを、
心良く思っていた。
阿伏兎自身にとっても、この輝青はまるで弟のような存在だ。
「息子」と言わぬのは、まだ阿伏兎も30代であるからだが。
それに仕事ぶりも正確で早く、戦闘能力も高い。
そして何より、修行中の幼い神威に、まるで兄のように優しく笑い、
闘いの修練ばかりでなく神威の勉学を手伝ったり、
食事を供にした時に見られた輝青の明るく思慮深い性格を、阿伏兎は非常に高く評価しているのであった。
将来、本当に神威の部下に配属されたらいい…という阿伏兎の願いは叶ったのだ。



…だが阿伏兎は先の神威の言葉を輝青に話すのはやめた。
今は、自分ひとりが知っていれば良い。
いずれ話す時が来るだろうが、輝青には。
だが現在、それを話さずとも闘いに何ら支障はない…はずだ。


「…青…出撃準備は整っているか?」
「はい。モナマリアが蜂起したと聞いた時に、筆頭が第七師団が出向くことになるかも…と言っていましたね?
なので、船の整備係にその旨を伝えておきました。ですから準備は万端です。
武器も充分に揃っているはずですが…筆頭、これからその確認に行って頂けますか?」
「ふむ。見てこよう。青も一緒に来い」
「分かりました。…あの…でも…」
「でも?」
「……団長の所に行かなくてよろしいのですか?…その…」
「…後で行くからいいよ。はは…」

こいつ…どこまで知っているのかな?
阿伏兎は口元を緩ませる。
「…八つ当たりされそうだがね」
「…はは…怖いな…」
輝青も困ったような笑みを浮かべた。

それは第七師団の団員に共通する神威への恐怖感だ。
あの笑顔の、あの整った口元から発せられる言葉の真意を見抜くことが出来なければ、
第七師団で生き残れないからだ。
もう長いこと神威の側で働いている阿伏兎でさえ振り回されているのを見ている他の団員らには、
まさしく恐怖の的。
だから尚更阿伏兎への信頼が篤くなる(笑)
その優れた戦闘能力と、第七師団の運営を事実上切り盛りしている阿伏兎へ、
それは深い信頼と同情(苦笑)のまなざしが向けられているのだ。

戦闘能力の高さに於いてその実力ナンバーワンとも言える神威だが、自ら傘を振り回すこと以外に、
全く興味を示さない様子。
当然、団の運営に支障が生ずる危険がある所を、
阿伏兎がその任務を滞りなく進めているのは第七師団員すべてが周知のことだ。
大将首を取ってそれで満足♪な神威は、それ以上の実務に
一切関わらなかった。

神威はあちこちの戦闘でただの指揮官に収まっているのに満足せず、自ら傘を持って飛び回っていた。
接近戦は夜兎の傘の殺傷能力が最も活かせる闘いだ。
船から船へと敏捷に移動し、船を破壊して侵入する。
司令官室を目指して走る。神威の目的はただ一つ、大将狙い。雑魚など蹴散らかすだけ。
死屍累々の中を、珊瑚色のお下げ髪と長いマントが揺れていた。
そうして堂々と敵陣を破り大将首を仕留めた。
それで神威の仕事は終わりだ。
神威は討ち取った大将首をぽんと阿伏兎に投げて満足げに笑い、腕に散った返り血をペロリと舐めた。
「ああ、楽しかった~♪でもまだ暴れ足りないなあ~、ねえ阿伏兎、次の闘いはいつなの?」


面倒な後始末はすべて阿伏兎に回ってくる。
敵味方を問わない死体の始末や燃料と武器の補給要請、戦闘機の修理や発注、
団員への報酬金の支払いやら手柄に応じた昇級の設定、上への戦闘結果報告書の作成、
団員からのさまざまな相談事やら愚痴やらを受け付けて…(下へのフォローも大事な仕事なのだ)
こういった実務系やら事務系やら雑務関係にすべて目を通すのが団長であるのに、
第七師団ではそれらは全部阿伏兎がやっていた。
目が回るほど忙しい。

「阿伏兎がそれでいいと思った通りでいいから」
そんな言葉ひとつで、にこりと笑われてお終いだ。
阿伏兎はため息しか出てこない。


それでも第七師団は阿伏兎のフォローのおかげか、無事に手柄を上げて運営にも事欠かないでいる。
前団長鳳仙の弟子には逆らえないなどという世襲的な考えは次第に消えて行き、
神威の優れた戦闘能力に対する見識は、この5年間で誰もが認めるところとなった。

こうして第七師団は神威という暴れん坊団長と、フォローの上手なちょいヒゲ参謀、
恐ろしげな戦士たちという組み合わせで、どうにか無事に宇宙という広い海の航海を続けていたのだ。



第七師団の戦場での目を見張る活躍ぶりは、春雨内でも他の星でも広く認められていることだ。
おそらく第六師団以外には。
それは他の団員らにも分かっていることだ。
自分らには神威と阿伏兎が居る。
団長神威の能力を高く評価しているのと同じく、この筆頭参謀阿伏兎の実力を、
誰よりも第七師団の団員全員が認めているのだ。


神威と阿伏兎と。
このふたりが居なければ俺たちは此処に居ない。
俺たちはこの第七師団に居ることを誇りに思っている。
…それは真実のことであった。


戦闘機の整備場を目指して長い廊下を輝青と共に歩く。
かつんかつんと、ふたりのブーツの音が響いていた。

……さらに阿伏兎には重要任務がもうひとつ有った。
神威の気まぐれなベッドの誘いに、「いいえ」と返事出来ないこと…それは昼でも夜でも仕事中でもお構いなし。
特にこんな会議の後では、ベッドの中でも一荒れありそうな予感だ。
…神威の心情に、フォローが必要だ。
これは戦闘よりも手こずりそうだ、やれやれ。
……これが筆頭参謀阿伏兎の最重要任務であるのかも…



そして団長代理で赴くことになるこの闘いの行く末を深く考慮しなくてはならない責任の重さに、
阿伏兎は肩が落ちそうになっていた。
ますます足取りが重くなりそうで、阿伏兎は心の中でちっと
舌打ちした。



春雨の戦闘要塞星TX・Ⅰ内には、各団ごとの整備場が設けられている。
阿伏兎と輝青は第七師団の母艦、戦闘機が並んで停泊している整備場へと向かった。
整備係や物資運搬係りが、せわしく働いていた。

阿伏兎に気が付いた整備員のリーダーが近寄って来た。
「筆頭。戦闘機はいつもの10機でよろしいですか?」
「ああ、それでいい。燃料はいつもよりも多めに頼む」
「分かりました。武器の準備は済んでいます。
ミサイルに各種投下用爆弾に手榴弾、長刀、短刀の類、それから弾倉…」
「ああ、他に戦闘用の銃を仕込んだ傘を多めに積んでくれ。
もしも長期戦になったら予備の傘が居る。夜兎族が多く出撃するからな」
「…?はあ…長期戦…ですか…」
「そうだ」
「…了解しました」
「だから食糧も多めに入れてくれ」
「了解です。阿伏兎筆頭」
係の団員が、慌ただしく走り出した。
「おおい、食糧係りに連絡だ。いつもより多めにという指示だ。それと予備の戦闘用の傘をもう20本追加」
「了解!」

「……阿伏兎筆頭……長期戦とは?…」
輝青が質問してきた。
「ミサイルを積んでいくのでしょう?長期戦…になりますでしょうか?」
「なるかもしれない…ということだ」
「はあ…ミサイルが数本有れば勝利出来ると思われますが?」
「ふむ…」
「何か特別な作戦でも?」
「いや…モナマリアに降り立ってからの戦闘の方が手こずると思うのでね」
「…はあ…それはどういう…?」
「モナマリアは我が第七師団の侵略星だ。各地に春雨の武器庫がある。
それを乗っ取られた形のクーデターだ。独立を狙っているのだろう」
「ああ!」
「分かったろう?モナマリアの兵士が持っているのは我が春雨の武器だ。
同じ武器を持っている者との闘いだ。手こずるに決まっている。あのMV7を撃って来るのだぞ?」
「そうでした!MV7は非常に破壊力のある銃です」
「そういうことだ。あれを傘で防げるかどうか疑問だぜ」
「ふうむ…これは…!」
「長期戦になってもおかしくない…」
「はい!」
「青も心して向かえよ」
「…!は、はい!」
「さあ…今度は戦闘機の整備を見て回ろう」
「あ、はいっ」
くるりと長いマントを翻して進む阿伏兎の後を追うように、輝青も走り出す。

…そうか…そうだった…春雨のミサイルだってあるのだ、
あの星には。
その星と闘うことになるのだから、長期戦になる可能性だって充分にある…こ、これは…!

第七師団に敵う者はなしという強い自信と誇りを持っているが、
その我が団と同じ武器を揃えた相手との闘いに備えて、
いつもよりも多めの武器や食糧を積むことにまで考えが及ぶ阿伏兎に、輝青は頭が下がる思いがした。
筆頭参謀に於ける当たり前の任務とは言い難かった。

闘うことしか頭にない暴れん坊戦士ばかりの第七師団の、誰がこれをこなすことが出来よう。

戦場に赴くのに必要な自信と誇り。
そしてそれ以上に大切な闘いの前の準備。
まさしく備えあれば憂いなしの行き届いた配慮が必要となる。

そうした細やかな配慮と指示が考えつく阿伏兎は、
さすがに第七師団の筆頭であるのだと、輝青は改めて考えた。
これこそあの神威団長に相応しい筆頭であるのだ、と。








冬コミ新刊阿伏兎×神威「絶対命令」の出だしの部分です。
この後にはお別れ前の…とか、に繋がります(笑)

阿伏兎、云業、輝青ほか第七師団の闘いぶりと
戦闘要塞星の神威とのやりとり…
遠く離れた宇宙で
阿伏兎と神威の篤い信頼と深い愛情がどの星よりも燃えています。

100P本です! ご期待下さい!




緋桜流のサイトに詳細あり。
   ↓
http://mizukijoe.sfcgi.com/










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